第3章 聖女の力
「実際、はっきりしたことがわからない状態で皆とも、ちゃんと話してはいないんだ。ただ、なんとなく食事の時が休息になってることくらいは皆気づいてるんじゃないかな?
同じ空間にいるだけで楽になるってことは、近くにいる、もしくは接触があれば、もっと楽になるんじゃないかって思うんだけど。
…………試してみる?」
「!!!!!!」
私の顔を覗き込むように視線を傾けた。
あざといっ!!!
阿部ちゃんと私の距離は電車で言うと1人、間にギリギリ座れる程度の距離だ。
ただでさえ近くてドキドキなのに今の言葉でドンッとドラムを叩くように心臓が高鳴った。
「ち、近くには今、いますよね?」
「うん。今、隣に来てから10分くらい?めっちゃ楽だよ」
ほんと何が楽なんだろう?気分?体調?
阿部ちゃんはニコニコとずっと笑顔だ。
「まだそれ、読むよね?
じゃあ左手貸して」
私に向けて阿部ちゃんが右手を差し出す。
ひぇえええええ…
「マジですか?」
「え?うんうん。マジです」
どうしたらいいのかはわかるが、思うように身体は動かない。
自分の手を彷徨わせ、膝で手のひらを擦って拭く。
阿部ちゃんは手を差し出したままだ。
おそるおそる左の手を彼の手へ乗せると、きゅっと握られた。
私、今日…命日かな。
「じゃあ、まず10分ね」
え……やっぱ死ぬ…。
阿部ちゃんは私の手を握ったまま、置いてあった本を片手で読み始める。器用だなっ!!慣れてんの!?
わざとなの?あざといの?
握られた左手からはじんわりと阿部ちゃんの体温が伝わってくる。これ、ヤバい。いや、無理。ナニコレ。
10分どころか1分もたたないうちに手に汗をかき始める。
うぇええええ……無理ぃ~!!
平静を装うように本を右手でなんとか開くが一文字も頭に入ってこない。
チラリと握られた手に視線を向けると、それに気づいた阿部ちゃんがまた笑みを見せる。何度も見せられる微笑みはすでに私には凶器と化していた。
やっぱあざといかよぉおおおっ!!!