第1章 青い監獄
「20世紀最高のフットボーラー、エリック・カントナは言った。『チームなんてどうでもいい。俺が目立てばいい』と。W杯優勝3回、史上最高のフットボーラー、ペレは言った。『世界一のFW、世界一のMF、世界一のDF、世界一のGK。どれも訊かれても自分だと答える』と」
最悪な人間だな…と絵心さんの言葉で思った。
本当に世界で活躍してるフットボーラー達は自分のことしか考えていないようだ。
でもそれだからこそ世界一になれるのかもしれない。
興味は無いけど。
「どうだ?最悪だろ!?でもコイツらがNO.1なんだ!革命的なストライカーたちは皆!!希代の“エゴイスト”なんだ。日本のサッカーに足りないのはエゴ(それ)だ」
エゴイスト。
ここにいる子達は絵心さんのいう世界一になる為のエゴを持っているのだろうか。
そう思いながら300人を見るが全員が困惑しきった顔をしている。
理解できないという表情をしながら。
「世界一のエゴイストでなければ、世界一のストライカーになれない。この国に俺はそんな人間を誕生させたい。この299名の屍の上に立つたった1人の英雄を」
299名の屍。
なんて響きの悪い言葉なんだろう。
でも絵心さんの言う通り恐らくこの中でその1人が産まれるのかもしれない。
「さぁ才能の原石共よ。最後にひとつ質問しよう。想像しろ、舞台はW杯決勝。8万人の大観衆、お前はそのピッチにいる。スコアは0ー0、後半AーT。ラストプレー、見方からのパスに抜け出したお前はGKと1対1。右6mには味方が1人。パスを出せば確実に1点が奪える場面…全国民の期待…優勝のかかったそんな局面で、迷わず撃ち抜けるそんなイカれた人間(エゴイスト)だけ、この先に進め」
絵心さんと私の後ろの扉が開いていく。
どこから流れてきたか分からない風が髪の毛を揺らしていった。
そして絵心さんの言葉にまた高校生達の顔色が代わり、絵心さんは笑みを浮かべる。
「もう一度言い改めよう…。サッカーとはお前らストライカーのためにあるスポーツだ。お前以外の人間はピッチ上の脇役だと思え。常識を捨てろ。ピッチの上ではお前が主役だ」
ゴクリと誰かが生唾を飲む音が聞こえた。
顔色が先程より変わった高校生達はあれだけブーイングをしていたのに今じゃ静かだ。
まるで絵心さんの言葉に侵食されているかのよう。