第1章 青い監獄
「お前らに訊く。サッカーとは何だ?11人で力を合わせて戦うスポーツ…?『絆を大切に』?『仲間のために』…?違うんだよ。だからこの国のサッカーはいつまで経っても弱小なんだ…。教えてやる…サッカーってのはな…相手より多く点を取るスポーツだ」
絵心さんの言葉に高校生達の顔色がガラリと変わった。
「点取った人間が一番偉いんだよ。仲良し絆ごっこしたいなら帰れ(ファック・オフ)」
とんでもない事を言っているのだろう。
私にはよく分からないけれども、絵心さんの言うことは一理あるのかもしれない。
サッカーが嫌いな私にとってはどうでもいい。
早く299名の中から一名がストライカーになってこのプロジェクトが終わって欲しい。
なんなら早く退職したい。
「不愉快です。撤回して下さい」
(あ……あの子、凄い。私なら絵心さんになんか言う度にさっきから泣きそうになるのに。最近の若い子は凄いなぁ)
声を震わせながら絵心さんに言葉を投げたのはさっきも発言していた子。
顔は心底不愉快ですという表情である。
「本田選手や香川選手…他にもいっぱいる…。代表イレブンが11人が戦う姿を…僕らは今までの日本代表のチームプレーを見て育ったんです!彼らは僕らのスターです!あんた間違ってるよ」
「…ん?本田?香川?んー?そいつらってW杯優勝してなくない?じゃあカスでしょ。世界一になる話してんだけど?俺」
『こわっ、退職したい、退職したい……』
なんで私はこんな怖い人の元で働くことになったのだろうか。
いやこれも全てここに働けと放り投げてきたお兄ちゃんのせいである。
お兄ちゃん恨みます末代まで。
「例えばノエル・ノアの話をしよう。メッシやC・ロナウドを抑えてバロンドールに輝いた。今、世界一のストライカーはこんな事を言ってる…。『見方にアシストして1ー0で勝つより、俺がハットトリック決めて3-4で負ける方が気持ちいい』と」
やっぱりサッカーしてる人はイカれているのかもしれない。
結局は『あの人』もサッカーでイカれてたからあんな風になったのだろう。
サッカーなんてやはり嫌いである、サッカーしている人間達も。