第1章 青い監獄
ツルッと足を滑らせてしまい真琴は後ろに倒れそうになる。
このままでは頭をぶつけるか背中をぶつけるな…と思いながらボソリと呟いた。
『終わった…』
「いやいや、諦めるなよ」
これはもうぶつかると諦めていた真琴の体を後ろから誰かが抱き留めていた。
ふわりと鼻腔を擽る少し甘いような匂いと、ガッシリとした体とぶつかる感触に真琴は数回瞬きをする。
声からして誰が抱き留めてくれたかは分かっている。
脳内でその人物の顔を想像しながらも彼女はゆっくりと顔を後ろへと向けた。
『御影…ッ』
「お前ホント非力だなぁ。まぁ、凪みたいな大男を運ぶって事が難しいよな」
「あ、レオ〜。この泣き虫マネージャー運ぶとか言いながら全然運べてないんだよ」
『凪が重いからでしょっ!!』
「ほらまた泣いてる」
「おいコラ凪、いじめてやんなって。真琴立てるか?」
『立てる……。ありがとう、御影』
取り敢えず真琴は立つと寝転がっている凪へと視線をやりながら『もう、この子嫌だ』と半べそをかいた。
毎回彼によっていじめられているので、サボっている凪をトレーニングするよう促すのが嫌であるのだ。
「凪〜、トレーニングすんぞ」
「え〜。ダルいから嫌なんだけど」
「少しでもトレーニングしとけ。少しだけでもしたら休んで良いから。な?」
『御影は凪に甘すぎる……』
「わかったよ。ちょっとだけね」
『なんで私が言ったら聞いてくれないのに、御影の言うことは聞くのかなぁ!?』
「どんだけ泣くわけ、アンタ…」
自分の指示は聞かずに玲王の言う事は聞く凪に、また真琴は泣いてしまう。
この先この子達のトレーニングのアシストはちゃんと出来るだろうかと不安だらけである。
『……退職したいッ』
「それ毎日言ってるけど飽きないわけ?」
この3日凪は真琴を見てきたが、よく泣くし直ぐに退職したいと言ってる姿しか見ていない。
トレーニングしている所を見に来ているのは知っているが、ほぼサボっている彼からしたらそんな姿しか見ていないのである。
(サッカーど素人知識で泣き虫で退職したがるのに、よくマネージャーなんかやってるよなぁ…)