第1章 青い監獄
『…ありがとう。あと苗字じゃなくて名前で呼んでもいいよ、『さん』も付けなくて大丈夫。2歳しか変わらない訳だし』
2歳差だけなので特別敬語も要らない。
そう思い提案するように言ってみれば潔は少しだけ目を見開かせてから柔らかく微笑んだ。
優しい陽だまりのような笑顔。
恐怖も圧もない笑顔に今まであった少しだけの怖さが消えていた。
「じゃあ真琴!また宜しくな!」
『うん。じゃあ無理無く頑張ってね』
チームZの中では彼が1番怖くない人間かもしれない。
接しやすいのもあるし、さっきの笑顔でなんとなくそう感じていた。
そして私に言葉をかけた潔はランニングマシンへと向かっていくとトレーニングを再開させていた。
それを見ながらも扉からトレーニングルームを出ると、私は嫌な気分になりながら廊下を歩いていく。
行き先はチームVが使用しているトレーニングルーム。
サボり常習犯はもう誰か検討はついているし、検討がついているから行きたくない。
『……やっぱりか』
チームZの使用しているトレーニングルームから、チームVが使用しているトレーニングルームはそんな距離は無いので数分で到着する。
「お、マネージャー」
『剣城…』
チームVが使用しているトレーニングルームに入ってすぐに床で転がって寝ている人物を発見。
スン…となりながら寝ている人物を見ていれば、チームVのメンバーである剣城斬鉄が声をかけてきた。
『トレーニング捗ってる…?』
「ああ捗っている。マネージャーは観察しにきたのか?」
『いや…サボり常習犯をトレーニングさせろという指示があって……』
そう言いながら足元で寝転がっている銀髪の子を見下ろしてから深い溜息を零した。
トレーニング中なのに爆睡しているのは凪誠士郎、あの日の説明会で絵心さんに『W杯なんて思い描けた』と言った子である。
そしてこの子なのだがサボり常習犯である。
何かしら『面倒臭い』や『眠い』やら『ゲームしたい』と言ってはトレーニングをしていない。
『…凪、凪。起きて』
声をかけるが起きる気配が無い。
本当なら放置してこのまま他の子のトレーニング様子を見たいのだが、それだと絵心さんに怒られる。
あの人ネチネチ言ってくるから怖いのだ。
『凪、起きて。トレーニングして』