第9章 別れの時
食事をしながらそんな事を考えていたのを覚えている。
「トオルは、結婚したら長野に行くのよね?」
「うん、そうだよ…」
「長野って冬は寒いの?」
「寒いらしいね…」
長野の冬はとても寒いのか。
私は寒いのが苦手だった。
その寒い冬の長野で彼は彼女と共にこれから先暮らしてゆくのだ。
寒い冬の夜など、トオルは彼女の身体を抱きながら眠るのに違いない。
そんな事を考えているととても淋しくなってくる。
そんな私の表情を見て何か感じたのだろうか。
トオルはこう言ってくるのだ。
「俺、美都の事は忘れないよ…」
それを聞くと私は嬉しくなった。
「私も、トオルの事は忘れないわ…」
私も、トオルの事を忘れる事はないだろうと思った。
この青年と恋愛した短い期間のことを一生私は忘れる事はないと思っていた。
「美都、食後にあんみつ食べない?」
「え?そんなのあったかしら?」
「あるよ、メニューの裏見てよ…」
そう言われたので、メニューの裏を見てみた。
すると、そこにはあんみつのメニューが書かれてあった。