第5章 北鎌倉
私は、生しらすがいなくなったので、ちょっと安心したのだ。
トオルは食欲も旺盛だった。
お刺身定食はたちまち食べつくされてしまった。
私にはちょっと量が多かった様に感じていた。
昼食を済ますと、鎌倉駅へとまた歩いて行った。
この頃になると、雨はすっかり上がっていて、空は曇っていた。
鎌倉駅に着くと、私たちは小町通りでウィンドショッピングを愉しんだ。
小町通りには沢山の可愛いお店が並んでいて、どこの店に入っても愉しかった。
私とトオルは一軒の和風小物を売っているお店に入ってみた。
そこのお店には、ちぎり絵の葉書や、和紙で出来た便箋や桜模様の可愛らしいシールなどが並んでいた。
その店で、トオルは私にちぎり絵の可愛い絵葉書を買ってプレゼントしてくれた。
「俺みたいな男がいたってこと、忘れないでこれを見たら思い出してね…」
その言葉はちょっと悲しさを感じさせるものだった。
期間が過ぎれば、お互い別々の道を歩いてゆかなくてはいけない。
別れる事を前提とした付き合いだったのだ。
「俺、今度の休みに美術展見に行くんだ…」
「誰の美術展?」
「ペイネの美術展だよ…」
「そうなの?私も一緒に行きたいわ…」
私がこう話すとトオルはとても困った顔をしていた。
私はどうしたのかと思ったのだ。