第5章 北鎌倉
「美都、ごめん、美都とは一緒に行けないんだ…」
「何故?」
「長野から彼女が来るんだ、それで彼女と一緒に見に行くんだよ…」
私は、この話を聞いてとても気持ちが落ち込んだのを覚えている。
そうなのだ。
この青年には彼女がいるのだ。
改めて、それを思い知った気がした。
トオルは彼女の事をとても想っていて大事にしている。
だが、私ともこんな割り切った様な関係も持っているではなか。
ちょっと、納得がいかなかったが、自分も人妻であることにこの時気が付いた。
自分も人妻なのだ。
こうして、夫に嘘をつき、若い男と鎌倉に来ている。
そんな、自分にトオルを責める資格はあるのだろうか。
トオルには彼女はいても、まだ独身なのだ。
誰と恋愛しても私には関係のない事だと思ったのだ。
そうこうしているうちに、陽は傾いて夕方になっていた。
10月下旬の空気はとても冷たさを感じた。
「美都、横浜に出て、居酒屋にいかないか?」
「そうね、お腹も空いてきたし喉も乾いてきたわ…」
私たちは、前回行った和風居酒屋とは違う店を探そうと思っていた。
何故なら、和風居酒屋は魚料理をメインとして出してくれる店だったからだ。
魚料理は、もうすでにお昼に食べつくしたように感じていた。
私たちは、鎌倉を後にして、横浜へと向かったのだった。