第5章 北鎌倉
私たちは、沸日庵を出て、来た道を引き返し北鎌倉の駅に戻って来た。
そこから、建長寺方面に何号線の道路か分からなかったがその道を二人で歩いていった。
その時、私たちはひとつの傘に身体をくっつけながら歩いていたのだ。
トオルは、私の身体を抱きかかえるようにして歩いてくれた。
「美都、雨に濡れてない?大丈夫?」
「ええ、大丈夫よ…」
「美都は、本当に小さいんだね…」
「そうかしら?トオルくんが大きいだけよ…」
そう言うと彼は少し苦笑いをするのだった。
私たちは縁切り寺と言われる『東慶寺』の案内看板を横目で見ながらそこを通り過ぎた。
「東慶寺は行かなくていいよね?」
「ええ、行かなくていいわ…」
東慶寺を過ぎて建長寺を目指しながら歩いていた。
私たちが歩いている横を大きな車や小さな車、自転車などが通りすぎてゆく。
暫く歩いていると「お食事処」と言う看板を見つけた。
丁度、時計を見ると12時半くらいだった。
「トオルくん、お昼ご飯食べて行かない?」
「うん、そうだね。俺、お腹空いたかも?」
「じゃ、ここの店に入らない?」
「いいよ、入ろう…」
店の名前は憶えていなかったが、「お食事処」と書かれた看板が印象に残っている。
暖簾をくぐり、店内に入ると昼時とあって、かなりのお客さんで賑わっていた。
どこに座ったら良いのか分からずにいると、女性店員が来て空いている席に案内してくれた。
私たちはテーブルに腰かけてメニューを見ていた。