第5章 北鎌倉
トオルは縁側から見える木々の緑を見つめて話し始める。
「俺さ、親父みたいにはなりたくないんだよな…」
そう言うとお抹茶を一口飲んだ。
私は、話を聞いていて、トオルは父親の事が許せないのだろう。
そう思ったのだった。
だが、人間と言うものは、許せないと誰が一番辛いのかと言えば、それは自分自身に他ならないと私は感じていた。
「そうなのね…」
私は、そう言うしかなかった。
トオルを説得して、父親を許せとは私は思っていなかった。
きっと、彼もある年齢に達したら、その事が理解できるに違いない。
私はそう思っていた。
「うん、だから彼女は幸せにしたいんだ…」
彼女の話しをされると私はちょっと淋しくなった。
期間限定でおまけに彼女がいる男なのだ。
この時ばかりは自分が人妻で主婦だという事を忘れてしまう。
少しばかりの嫉妬を感じてしまうのだ。
お抹茶を飲んでいる間、また雨が降り出してきた。
「もうそろそろ、行こうか?」
「ええ、そうね…」