第10章 六年前の悪夢
「今日はやけに静かだな。」
『そうだね。』
中也と一緒に屋上へ上がり、外の空気を吸う。
彼の云う通り、今日は静かだった。
銃声、爆発音、悲鳴
そのような音が全くしなかった。
ふと中也を見ると、煙草を吸っていた。
でもその顔はとても寂しそうだった。
"彼は仲間想いで、情に熱い。僕が一番苦手なタイプだ"
昔兄さんが云った言葉だ。
そうだとすれば、仲間六人を失った中也は悲しいはず、、、。
私はどうすればいいのだろうか。
その時、ある人の言葉が頭によぎった。
"悲しい時は側にいてやれ、そんで肩を貸してやれ"
織田作の言葉だった。
実は以前にも中也は仲間を失っていた。
それは龍頭抗争が起こる少し前のこと、、、。
その時、織田作に云われたのだ。
結局はあの時は中也の側にいてあげられなかった。
何故なら、あの事件後すぐに龍頭抗争が始まったからだ。
正直織田作の云っている意味は判らなかった。
でも今云うべきだと感じた。
『中也、肩使う、、、?』
私の言葉に吸っていた煙草を落とし、キョトンとした顔をする。
何かまずいことでも云ってしまったのかな。
そう思っていると、、、、
「少しだけ、、、貸してくれるか?」
『うん、、、ッ!』
頷いたと同時に中也に手を引かれ、気付けば彼の胸の中にいた。
中也は少しだけ震えていた。
何か言葉をかけるべきなのだろう、でもなんて声をかけるべきか判らない。
私はただ彼の胸の中に収まることしかできず、数分が経過した。
「ありがとな、、、、、」
『大丈夫。』
顔を上げると少し目の赤い中也と目が合った。
そして中也は言葉を続けた。
「手前だけは絶対に守る。絶対にだ、、、」
『じゃあ私も中也を守る。』
本心だった。
「ふはっ、そりゃ頼もしいな。」
私の言葉に笑う中也、何かおかしなことを云ったのだろうか、、、
でも、中也の笑った顔を見ると私の心はいつも暖かくなるのだ。
今だから判るが、この時から中也へ特別な感情を抱くようになった。
これが六年前の悪夢だ。
もう二度と誰も死なせない、、、、