第1章 素直になれなくて(舞&光秀&家康)R18 有
廊下を歩いていると、ふいに声をかけられた。
「光秀さん…?お帰りなさい」
(――こんな夜更けに何をしている)
「お戻りになったんですね。あまり城でお見かけしなかったので」
「あぁ…まぁな」光秀は短く返事をしながら、彼女をじっと見つめた。
「俺がいなくても、ちゃんと自主練に励んでいるか?」
「はい、三成くんが最近は私の練習を見てくれています」
「そうか。良かったな」
「それで…」が何かを言いかけたが光秀が制した。
「遅いから、一応、部屋まで送ろう」
「あっ…。はい」
光秀は歩き始め、は彼の背中を追いかけるようにちょこちょこと後をついて行く。
落ち着いた歩調には合わせようとするが、足が長いので置いて行かれないようにした。
久しぶりに会えた光秀だが、どこか緊張感が漂いの鼓動も早くなった。
「光秀さん…」はふと、目の前の背中に向けて呼んでみたが、返事はなく、光秀はただ無言で歩き続けていた。
(何を考えてるんだろう…)
がそんなことを思っていると、突然、光秀が足を止めた。
その瞬間光秀の背中に顔からぶつかってしまう。
「ぷぎゃっ!」
思わず、変な声が出た。
光秀が肩を震わせてクックックと笑っているのが見えた。
「なんで急に立ち止まるんですか?」
鼻をこすりながら、頬を膨らませて文句を言った。
「意地悪したくなった。久しぶりにお前のそのふにゃけた顔が見れて、俺は嬉しい」
光秀のその言葉に、は一瞬驚いたが、その顔が満足そうで、どこか嬉しそうに見えたので、自分も自然と笑顔になった。
(こんな何気ないやり取りだけで、会えなかった時間が埋まる気がする…)
はそんな風に感じた。光秀がたまに見せる柔らかい表情が、の心をとても温かくしてくれた。
光秀はそのまま、彼女を部屋の前まで送ると
「おやすみ、。」
と軽く髪を撫でて、何事もなかったかのように静かに去って行った。
光秀の背中を見送りながら、は胸に溜まった想いを無視できなかった。
(会えただけで、一緒に歩いただけで、笑ってくれただけでこんなに嬉しいなんて)
恋しているんだと自覚したのはこの時だった。