第1章 素直になれなくて(舞&光秀&家康)R18 有
ある日、光秀はお館様から密偵の任を命じられ、しばらく城を離れることになった。のことが少し気掛かりではあったが、秀吉や家康が城内にいるため、大事にはならないだろうと考え、任務に向かった。
しかし、密偵先の呉服屋で予想外の事態が起こった。密輸の疑いがある反物商を監視していたその時、なんとがその店に現れたのだ。
は勿論光秀の存在に気付いていない。
は屋敷の仕事で稼いだ小遣いを持ち、反物を仕入れに来たらしい。
シンプルだが淡い水色の男性向けの反物を手に取っていた。
「恋仲にでも仕立てるのか?」と店主に言われ耳まで真っ赤にしながら、慌てては答えた。
「そ、そんなんじゃないです!日頃お世話になってる方に…」
光秀はあの反物は、自分への贈り物だとすぐに気づいた。
(あの娘は……)と光秀は思わずため息をついた。
一方のは、城に戻ってから針子としての仕事の合間を見つけ、光秀への贈り物を縫っていた。彼に日頃の感謝の気持ちを伝えるための羽織だが、内心ちょっと不安だった。
(ただのお礼とは言え……羽織なんて重たすぎるかな?)
現代だったら手作りの贈り物なんて少し重いかもしれない。
でも、この時代においては、ができる精一杯の贈り物がこれだった。
(今の私にできるのは、これくらいしかないものね……)
は、光秀への思いを一針一針に込めながら、丁寧に縫い続けた。