第3章 一人の男と一人の女(顕如)
「そうだな!だが、私はもう僧侶では無い。」
「ただの人?」
「ただの人!」
また、肩を揺らして笑っている。
こんな物言い失礼だったので、怒りを通り越して笑ってしまっているのだろうか?とは少し不安になったが、直ぐに
「だから気に病むことはない!」と返された。
(でもこんなに可笑しそうに笑う顕如さん初めて見た!)
ドシンっ
「っつぅいたたたた」
「蘭丸か?」
「蘭丸くん?出てきて」
「ご、ごめんなさい。顕如様がそんなに笑うお姿を久しぶりに見て、動揺して…」
蘭丸は目に涙を浮かべている
が蘭丸に手ぬぐいを差し出した。
「蘭丸…礼を言いう。を連れてきてくれてありがとう。」
「さま凄いや。本当に天女さまだね。」
美しく整った顔で、嬉しそうに笑顔で真直ぐに言われた。
「じゃぁ僕行くね。顕如様もう邪魔者はいませーん」
「…。」顕如の目が細まり目尻が下がってきた。
その横顔を見ているだけでも十分なほど心が満たされた。
(この人は鬼じゃない 時代が、運命が彼を闇に落としてしまった、きっと救える。一緒に生きれる)
すると顕如は、体の力が全て抜けたというように、ピンとはってた肩甲骨までゆるめ、肩を丸くし、姿勢を崩して胡座をかいた。
臨戦態勢で常にいた人だったし、別に世間話をしてる時ですらピッとしてたのに、何だか親しみがわく。ほんとにただの男の人なんだと思った。
今度は、その優しい眼差しを自分に向けてきた。
顕如がに、甘く低い声で呟いた。
「せやしな、ここにいてるんは、お互いが愛し合うてる、男一人と女一人やさかい安心してええねんで」
(急に京都弁!)
だんだん頬が熱くなってきた!!
死ぬほどの覚悟で来たし、抱かれる覚悟もあったのに、目の前にいる男前が自分を好きだと言ってると再認識したら、今更恥ずかしくなってきてしまった!
(帰りたい!いや!帰らない!)