第3章 一人の男と一人の女(顕如)
「あなたを愛しています!」
顕如は何も答えなかった。
「嘘だと疑いますか?間諜だとまだ疑いますか?」
は顕如の胸を叩きながら咽び泣いた。
喉には自分がつけた傷から垂れていた血が乾いてきている。
この子はどうしてこんなに強いのか?
何故飛び込んでくるのか?不思議でしょうがなかった。
少し間がありようやく顕如が口を開いた。
「お前が私を人にしてくれるのだな。神も仏もないと諦めかけていたが、が私を導く光になってくれるんだな」
顕如の目には涙が浮かんでいた。
微かに震える手を取り強く言った。
「死なないで!死のうなんて考えないで!お願いだから一緒に生きて。安土で文を書いてきた!私はもう信長様の所には帰らない」