第1章 過ち
「おそ松兄さん…」
カラ松くんが小声でポロッとおそ松くんの名前を呼んだので、私たちのところへ向かってきている人物はおそ松くんなのだろう。
背中から視線を感じる。どうやらおそ松くんは私の死角から近寄ってきているみたいだ。
だ、大丈夫かな。体、ちゃんと男になってるかな。
「…その子、誰?」
「え、えっと…この子は…」
もう振り向いても大丈夫かな。
心做しか、髪が短くなって頭が軽くなったような気がする。
身長もカラ松くんたちと同じくらいになったし、今の私ならきっと…。
「は、初めまして…立花…えっと、春馬って言います!」
「…え、男?さっきまで隣にいた子、女の子じゃなかったっけ?」
う、やっぱり薬を飲む前の姿も見られちゃってたんだ。
でもこのおそ松くんの言い方的に、まだ確信を得てないみたいだから、適当に誤魔化してみよう。
「や、やだなぁ、男ですよ!僕…」
「えー?スカートだった気がするんだけど…」
「そ、それはきっと…幻覚です」
「幻覚ぅー?」
体だけじゃなくて、身にまとってる服も一緒に男性になってくれたから、ギリギリ助かったけど、おそ松くんはまだ私のことを怪しんでいる様子だった。
「…ま、別にどうでもいいけど、結局そいつは誰なわけ?お前らの友達?」
「そ、それは…」
さっきの自己紹介だけじゃ、さすがに説明が足りなかったか。
別に二人の友達だって言ってもいいけど、どうせこれから一緒に松野家に行くことになるんだから、お世話になることを事前に説明しておいてもいいだろう。
「じ、実は…!」
…でも、過去のおそ松くんは私のことを毛嫌いしてたからなぁ。
ここで説明しても大丈夫なのかな。
過去の記憶は曖昧だけど、「六つ子の中に割り込みやがって!」って、一番内心で思ってそうだったのは、おそ松くんだった気がするし…。
「………」
「…なんだよ、実はって」
「あ、あー!もうお母さんから話聞いてるかもしれないんだけど、実は僕ーーー」
おそ松くんにこれから嫌われる可能性があったとしても、松野家に泊まる未来は変えられないので、私はおそ松くんに事情を説明することにした。