第5章 忘れ物
ーーいやさっき反省したばかりなのに、なに変態みたいなことを言っちゃってるんだ、私は。
私が変なことを口走ってしまったせいで、一松くんは照れながら固まってしまっていた。
ご、ごめんよ、一松くん…。
「あ、あはは…あの、その体操着が嫌だったら、おそ松くんかチョロ松くんに借りるのはどうかな…!?二人とも、体育に参加してたから持ってると思っ」
「別に嫌じゃないけど」
「…え…で、でもその体操着、私の汗とかでベタベタしてるんじゃ…絶対汚いよ…!」
「もし仮に汚かったとしても、あの二人の汗がついてる服着る方が俺は嫌だよ。おそ松兄さんとか臭そうだし」
しれっと本人がいない場所で悪口を言われてしまっている。
可哀想なお兄ちゃんだ。
まぁおそ松くんの日頃の行いからして、自業自得なんだろうけど。
「あ、あー!私の汗も臭いかもしれないので、やめておいた方が賢明かと…!!」
「んーそう?」
「え、え…!?!」
かかか、嗅いだ…!!
一松くんが体操着を思い切り嗅いでしまっている!!
あ、あぁ!!やめてくれー!!
「あ、あ、ちょっと、一松くっ…」
「ははっ、ごめんごめん、今のはさっきの仕返しだよ」
さっきのって…。
あ、そういえば私も、一松くんに「いい匂い」とか言っちゃってたんだった。
や、やられた…。
楽しそうに悪い笑みを浮かべている一松くんが、私のために「本当に臭くないよ」と言ってくれている。
だが、それでも心配なものは心配なのだ。
あとで着てみたら、やっぱり臭かったっていう可能性もあるのに…。
「ご、ごめんね、一松くん…私が借りちゃって…」
「いいんだよ、俺から言い出したことだし、春奈ちゃんは気にしないで?」
あ、いつもの優しい笑顔だ…。
「…ありがとう、一松くん」
一松くんはいいって言ってくれてたけど、本当にこれで良かったのだろうか。
まぁ今は夏じゃないから、私が思ってるほどめっちゃ臭くはないと思うんだけど…う、うーん…。
あぁ、午後はこのモヤモヤを抱えたまま、授業を受けることになりそうだ。
臭くありませんように…。