第1章 過ち
「僕、デカパンのところ行ってくるから、ここで待っててね」
「ありがとう、カラ松くん…!」
性別を変えるまで松野家には入れないので、放課後、授業が終わってから私は松野家の近くの公園でカラ松くんの帰りを待つことにした。
ブランコとか久しぶりに乗ったような気がする。大人になってからだと、乗る機会がなくなっちゃうから、今のうちに堪能しておこう。
あぁ、風が気持ちいいなぁ…ん?
「立花さん…!!」
「カラ松くん?」
もう行ってきたんだ。
まだ十数分くらいしか経ってないのに、デカパン博士の研究所って、ここから結構近いのかな…。
公園の外で私の名前を叫びながら、カラ松くんがこちらへ向かって走ってきている。
貰えたのかな、薬…。
「カラ松くん、あの…」
「隠れて!!」
「え、なんで…」
「早く…!!」
ど、どうしたんだ、急に…!!
誰かに追い掛けられてるのか…!?
いつもの5倍くらいの声量で、カラ松くんに思い切り「隠れて!」と言われてしまったので、私は疑問を感じながらも隠れざるを得なかった。
見つかったら死ぬぞ!くらいの勢いで言われちゃったから、ついつい茂みに隠れちゃったけど…私は誰から隠れてるんだろう…。
「ーーーカラ松兄さん!!」
公園の外から聞こえてきた誰かの声。
恐らく、カラ松くんはこの声の主に追い掛けられていたのだろう。
そして、カラ松"兄さん"ってことは…。
「じゅ、十四松!着いてきちゃダメだって言ったのに…!」
やっぱり、カラ松くんの弟さんだ。
十四松くんって、どんな子だったっけ…。
確か、不良で…やばい、昔のことすぎて思い出せないかも…。
「うっせぇ!!お前がなんか怪しいもん隠し持ってるからだろ!!見せろよ、それ!!」
「何も持ってないってば!!」
「いいから見せろって…!!」
あああ、なんか私のせいで兄弟喧嘩が起きちゃってるよ。このまま隠れてていいのかな。
多分、カラ松くんが持ってる"怪しい物"って、性別を変える薬だと思うんだけど…。
「だ、ダメだって…十四松、ストップストップ!」
「見せろや、コラ」
二人にはーーーというか、六人には仲良しでいてもらいたいから、ここは十四松くんも違うことに賭けて、私から事情を説明することにしよう。