第5章 忘れ物
「…あれ、なんかその体操着、ブカブカじゃね?サイズ間違えちゃってるよ、春奈ちゃん」
体育の授業が始まる直前に、いきなり話し掛けてきたおそ松くんが、私の服の裾をグイグイ引っ張っている。
学校で顔を合わせる度に、私にちょっかいを掛けてくるおそ松くんくんは、きっと暇なのだろう。
「まぁ確かにブカブカだけど、これ私の体操着じゃないから…」
「え、じゃあもしかしてそれ、彼ジャージってやつ?ひえ〜匂わせじゃーん!ヒューヒュー♪」
「か、彼ジャージ…!?違うから!これは友達のだから…!」
「なーんだ、ただの友達かぁ」
とか言いながら、おそ松くんは私の背中に乗ろうとしていた。
おんぶして欲しいのかな…。
私の力じゃどう頑張っても無理だから、おんぶして欲しいなら他の人を当たって欲しいんだけど…。
う、こ、腰が…!!
「……なんか、春奈ちゃんの体操着から、一松の匂いがするんだけど」
「え」
す、鋭い。
使ってる柔軟剤は同じだから、洗濯後の服の匂いは六つ子みんな同じだと思ってたけど、意外とそんなこともないのだろうか。
一松くんの匂い…って、そもそもどんな匂いなんだ。
松野家の匂いじゃないのか、これは。
「ねぇこれってもしかして一松の」
「こら、そこ授業中に遊ばない!!」
「す、すみません…!!」
って、なんで私だけ謝ってるんだ!!
おそ松くんが、授業中にちょっかいを掛けてくるから、先生に怒られてしまったじゃないか…。
おそ松くんはいつも悪さばかりしてるから、怒られ慣れてるのかもしれないけど、私は先生に怒られることとか滅多になかったのに…おそ松くんめ…。
「あーあ、怒られちったね」
「だ、誰のせいだと思って…」
「んー、春奈ちゃんが男の体操着、着てるせい?」
「違うでしょ!」
「こら、そこ!!」
「はい、すみません!!」
ま、また怒られてしまった。
なんでこんなことに…。
「今のは春奈ちゃんの声が大きかったせいじゃない?俺だけ悪いわけじゃないよね?」
「………」
…否めない。