第5章 忘れ物
「………」
い、言ってしまった。
絶対バカだって思われちゃったよ…。
いつもは忘れ物なんか滅多にしないのに…。
割と真面目な方なのに…!
「…だから、カラ松に借りに来たってこと?体操着」
「う、うん…いつもは忘れ物とか…あんまりしないんだけど、今日はたまたま…その…」
なんて、今更言い訳を重ねたところでもう手遅れか。
一日に二回も忘れ物しちゃってるんだもん。
見損なわれたよね、きっと…。
「…俺が貸すよ」
「え…?」
「体操着なら俺も持ってるから、俺が貸すよ」
「で、でも…」
「体操着がなくて困ってるんだろ?なら俺のことも頼ってよ、友達なんだからさ」
い、一松くん…!!君はなんて優しいんだ!!
さっき数学の教科書借りたばっかりなのに、体操着まで貸してくれるだなんて…。
「…ちょっとサイズが大きいかもしれないけど、はいどうぞ」
「ありがとう、一松くん…!」
私のよりも、少しサイズが大きい一松くんの体操着を手渡ししてもらい、私は自分の教室に帰ることにした。
今から急いで着替えよう。
ーーあ、体操着から松野家の匂いがする…。
この匂いには、包み込むような安心感があるなぁ。
カラ松くんも十四松くんも、これと似たような匂いの服を着ているから、この匂いを嗅ぐとみんなの顔が思い浮かんでくるよ。
…って、いくら洗濯してあるとはいえ、人の服の匂いはあんまり嗅がない方がいいか。
なんか変態みたいだし。
これからは気をつけよう。