第3章 ファーストキス
「十四松くん、おはよー」
「…はよ」
寝起きで少し不機嫌そうな十四松くんの低い声。
私のせいで寝不足になってしまったのか、十四松くんの目には隈が出来てしまっていた。
「春馬くん…よく眠れた?」
「う、うん!よく眠れたよ、カラ松くんもおはよ」
「お、おはよう…」
私の体が女に変わっていないか、目視で確認しているカラ松くん。
昨夜の出来事は十四松くん以外、誰も知らないので不思議に思うのも無理はないだろう。
「薬…」
「あ、朝ごはん!食べに行こっか、カラ松くん…!」
「う、うん…?」
昨日は十四松くんが私のために頑張ってくれたんだ。
だからキスのことは、私が墓場まで持っていこう。
目的が何であれ、昨日のことは誰にも知られたくないだろうからね…。
眠い目を擦りながら、階段を下りているカラ松くんの後ろについて行く。
今日は外が薄暗いから、午後から雨が降るかもしれないなぁ…。
…って、傘持ってないじゃん、私。
じゃあ仕方ないからコンビニでビニール傘を…って、お金も持ってないじゃん、私。
終わった…。
「ーーーご飯、美味しくなかった?」
「いいいいやいや!美味しかったよ!すごく!」
「そっか、よかった」
「あ、あはは…」
そんなに顔に出てたかな、私…。
学校へ行く準備をしているカラ松くんを尻目に、私は雨が降ってもいいように予備の傘がないか十四松くんに尋ねることにした。
十四松くん、どこにいるんだろう…。
階段を降りて周りを見渡してみる。
えーっと、十四松くん、十四松くん…。
あ、いた。
もう玄関で靴履いてる…!早い!
「あの、十四松くん…!」
「ん?」
あれ、十四松くんじゃない…!!!
私の呼び声に釣られるように振り向いた、十四松くんだと思っていた人物は、なんと眼鏡をかけていた。
つまり…彼は…。
「僕はチョロ松です、十四松はトイレ中」
「あ…」
後ろ姿が似ていたから、私はてっきり十四松くんだと思って気さくに話し掛けてしまったけれど、話し掛けた相手はまさかのチョロ松くんだった。
冷静になれば、チョロ松くんだってすぐに分かっただろうに。
何をやってるんだ、私は…。
人間違えとか失礼すぎる…失態だ…。