第3章 ファーストキス
あと、1時間か…。苦しいけど、死ぬことはないと思うから我慢しよう。
見た目は高校生だけど、私の中身は、立派な大人だからね。
「う、ん…できる…」
「…!」
「ふぅ…」と息を吐きながら、私は「絶対にすぐ良くなるだろう」という思い込みの力で何とかすることにした。
そんな中、十四松くんは「本当に我慢できるのか?」と私のことを疑っているのか、一人で静かに百面相を繰り広げていた。
どうしたんだろう、十四松くん。
薄暗くてよく見えないんだけど…え、なんか顔近くない??
「……?…ぇ……」
元々近かった十四松くんの顔が、今は更に近くにある。
これは、まさか?と思ったのも束の間で、十四松くんは震えた手で私の肩を掴みながら、ゆっくりと目を細めていた。
「ぁ……」
こんな状況で、逃げられるはずもなく。
私は十四松くんに唇を許してしまった。
重なったのは、ほんの一瞬でーーー。
「…楽に、なった?」
「………」
十四松くんが私の返事を待っているのに、私は驚きのあまり頷くことしか出来なくなっていた。
曖昧だった十四松くんの顔が、今はハッキリと見える。
十四松くん、そんな顔してたんだ。
歯を食いしばりながら、頬を赤く染めている十四松くんが、私から目を逸らしている。
もしかしたら十四松くんは、キスが嫌だったのかもしれない。
私は副作用の効果が切れて、お陰様で元気になったし、女にも戻れたけど、十四松くんには嫌な思いをさせてしまったな…。
「…十四松くん、ありが」
「シー、今のアンタ声高ぇんだから…静かに」
「ぁ……」
そうだった。
今は女の子だから、声出したらすぐにバレちゃうんだった。
危ない危ない…。
こんな状況でも冷静な十四松くん、すごいな…。
他の兄弟を起こさないように、ゆっくりと布団から立ち上がった十四松くんが、タンスから例の薬を取り出して、私に差し出してきた。
「…ん、これ…薬」
「…!」
心の中で十四松くんに感謝を伝えながら、私は昼間飲んだ薬をもう一度飲み直すことにした。
「…ありがとう」
「別に…そっちが苦しそうにしてたら、こっちが迷惑だからしただけだし……寝る」
「あ…おやすみ、十四松くん」
怖い声で「寝る」と言いながら、布団に潜ってしまった十四松くん。
私はそんな彼の背中を見つめながら二度寝することにした。