第1章 過ち
そもそも、親の都合で高校時代は確かに松野家で一年間くらいお世話になってたけど、そこまで仲は良くなかったのに「ずっと好きだった」って…本当なのかな。
六つ子と会話した記憶なんて、ほとんどないんだけど…。
それに、高校時代の六つ子は仲が悪かったから、家庭内の空気が重くて、私が彼らと楽しく会話できるような状況ではなかったし。
学校でも、最低限しか会話してなかったから、何松くんが私に好意を寄せてるのか全然わからなーーー
「ーーーえ?」
考え事をしながら、階段を駆け上がっていたせいだろうか。
私は、足を滑らせてそのまま後ろから落下してしまっていた。
あ、死んだ。
そう思った頃には、もう既に私の意識は途切れていた。
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「〜いてっ!」
頭に軽い衝撃が走った。
あれ、私…いつの間に寝てたんだろう。
もしかして、昨日のアレは夢だったのかな。
「新学期早々、何やってんだ立花」
せ、先生…?
なんで高校時代の担任がここにいるんだろう…。
「す、すみません…」
怒られている意味もわからずに謝罪をしていると、私のことを見ながら笑っている生徒たちが視界に入ってきた。
え、ここ…教室?
私、走馬灯でも見てるのかな。
…いや、先生に教科書で頭を叩かれた時は、確実に痛みを感じたから、多分現実だ。
ということは…。
「過去に戻ってきちゃったんだ!」
「なに寝ぼけてんだ立花!廊下に立たせるぞ!」
「す、すみません…!」
う、また生徒たちに笑われちゃったよ…。
もうみんなの名前よく覚えてないけど、ちらほら昨日の同窓会で話した人たちがいるから、ここは確実に私の過去の世界だ。
これは困ったぞ。
先生が持っている教科書的に今は高校三年生だ。
高校三年生ということはつまり、ちょうど松野家にお世話になる年ということだ。
高校時代に何かされた記憶はないけど、六つ子の中の一人に、あんな感情を秘めていた人がいるんだと思うと、未来が分かってても気が気じゃないよ。
それに、私は"過去の私"と全く同じ行動を取ることは絶対に出来ないから、いくら前回は無事だったとしても、今回も無事に済むとは限らない。
だから、なにか対策を考える必要があるんだけど…。
うーん…。