第3章 ファーストキス
ーーー眠れない。
十四松くんが真隣にいるせいだろうか。
寝心地が悪いとか、そんなことは一切ないんだけど、不安だからかな。
それとも、男の子だ寝るのか初めてだからかな。
私はまったく眠れなかった。
どうしよう。
明日からは、ちゃんと学校に行こうと思ってるのに。
私だけ寝坊とか絶対に嫌だ。
というか、私はあと数時間で女に戻っちゃうから、誰よりも早起きして薬を飲み直す必要があるのに…寝坊したらおしまいだ。
今すぐに寝よう、今すぐに…。
「………」
ね、眠れない…!!なんで今日に限って…!!
…十四松くんはもう寝ちゃったのかな。
まぁ、さすがにもう寝てるだろうなぁ。
なんて思いつつも、私は薄目で隣を見てみることにした。
すると…。
「…え…」
目が合った。
寝ているはずの、十四松くんと…って、え?
どういうこと?
十四松くん、なんでこっち見てるの?
いや見てるというか、正確には睨んできてるんだけど…ええ…??
目開けながら寝てるの!?
それとも、起きてるの…!?
「…なに見てんだよ」
「ぁ…ご、ごめん…」
起きてたんだ…。しっかり起きてたんだ…。
十四松くん、いつからこっち見てたんだろう…。
もしかして、十四松くん私のこと好きだったりーーするわけないか。
「…寝ないの?」
「こっちのセリフ」
「十四松くんも、明日学校だよね…?」
「別に俺はサボるからどうでもいい」
「だ、ダメだよ、新学期早々、学校サボっちゃ…」
「アンタには関係ないだろ」
「それは…そうだけど…」
青春できるのなんて今だけなんだから、どうせなら学校にいっぱい行って楽しんでおきたいじゃん。
っていう考え方は、さすがに大人目線すぎるかもしれないけど…。
…なんて言ったら、十四松くんは学校に行ってくれるんだろう。
「…こっち見んな」
「十四松くんが先に見てたんだよ」
「俺は見てねぇし」
「ウソだ」
「嘘じゃない」
「ウソだ」
「…もういい、寝る」
「あ…」
素直じゃないなぁ〜もう…。
…でも、十四松くんと話して少しだけ気持ちが落ち着いたし、私も今日は寝よう。
「なんで過去に戻ってきちゃったんだろう」とか、考えたって仕方のないことだ。
私はもう、あの頃には戻れないのだから。