第3章 ファーストキス
どうしよう。
末弟のトド松くんに泣かれてしまったら、私は兄たちの反感を買ってしまうかもしれない。
みんな、なんだかんだ言って、前世でもトド松くんのことすごく大切にしてた記憶があるから…これはまずいぞ。
な、泣かないで…!お願い…!
私、床で大丈夫だから!!
布団いらないから…!!
「僕…知らない人の隣で寝るのイヤだよぉ、チョロ松兄ちゃん…」
「あー、大丈夫大丈夫、あの人にはトド松の隣じゃない方で寝てもらうから……ちなみに一松は」
「んー無理かも」
「だよねぇ…」
チョロ松くんの問いに対して、食い気味に無理だと言った彼の名前は松野一松くんだ。
明るくて爽やかな松野家の四男だけど、そんな一松くんにも思い切り拒絶されてしまう私って…。
…仕方がない。
こうなったら、もう布団の中で寝るのは諦めよう。
最初は眠れないかもしれないけど、慣れたら硬くて寒い居間でもぐっすり眠れるよね、きっと。
「あの、カラ松くん、わた…僕、布団なくても大丈夫だから、居間で…」
「コイツは俺の隣で寝るから、二人の邪魔にはならねぇよ」
そう言って今まで静かにしていた十四松くんは、私の肩を優しく掴んできた。
「え…?」
十四松くん、なんか定期的に何回も「あ"ぁ?」って言いながらメンチ切ってくるけど、多分、根はすごくいい子なんだろうな…。
彼だって、私の隣とか絶対に嫌だろうに。
この重い空気に耐えかねたのか、十四松くんはぶっきらぼうに「だからもういいだろ、この話は」とおそ松くんに言っていた。
「はぁ?十四松の隣ぃ?」
納得行っていなさそうな長男が、眉間に皺を寄せながら十四松くんのことを見つめている。
おそ松くんは今すぐにでも、私にこの家から出て行ってもらいたいと思っているのだろう。
「俺、すみっこだから誰の邪魔にもならないよ、おそ松兄さん」
「……ま、好きにしたら。俺関係ないし」
顔にはデカデカと「納得いかない」と書いてあるが、口だけでも受け入れてくれたおそ松くんは、きっと多分いい人だ。
でも…この兄弟、口を開けば言い争いばかりで、このままじゃ仲直りなんて出来そうにないな…。
カラ松くんは優しい口調で「いつもこんな感じだから、気にしないで」と言っていたけれど、本当になんでみんな仲悪くなっちゃったんだろう。