第1章 A
そんなさ、甘い誘い文句に、この俺がそう簡単に乗ると思う?
絶対乗らないと思うだろ?
でもさ、何か良く分かんねぇけど、乗っちまったんだよ。
理由?
そんなもんは…、(豚汁以外には)多分無いけど、もしあるとしたら…
俺に向ける翔の笑顔が、やたらと優しかったから、なのかな。
一旦公園に荷物を取りに行き、そこからタクシーで向かった先は、ごく普通のマンションで…
ただ、オートロックもあるし、エントランスっつーの?には、コンシェルジュって奴がいて、俺が住んでた安アパートとは雲泥の差。
「すげぇな、あんた…」
見たところ俺とは年も近そうだけど、こうも違うかと思うと…
正直…、これまでの俺の人生、やり直したくなる。
エレベーターが最上階て止まり、翔が「どうぞ」と俺を先に降ろしてくれる。
つか、一々様になってんだよな…
ムカつくくらいに。
「ここ、俺の部屋。で、こっちが寮になってんだけど…」
「寮…ってことは、誰か住んでる…ってことか?」
「そりゃそうだろ、〝寮〟なんだから」
んな話し、聞いてないけど?
まあでも、そうだよな。
ちょっと騙された感はあるけど、実際見ず知らずの、しかもホームレスだもんな?
雨風凌げて、豚汁も食わせてくれるってんだから、ありがたく思わねぇとな。