第1章 A
当然…
俺が翔から差し出された手を握り返すことはなくて…
だってだよ?
あまりにも軽過ぎじゃん?
〝宜しく〟ってなんだよ…
まず〝ごめんなさい〟だろ?
俺は鼻息荒く両腕を組むと、フンッとばかりにそっぽを向いた。
でも翔は至って平然としていて…
「お前さあ、今俺の手取らなかったら、絶対損することになると思うんたけど、良いのか?」
「は、はあ?」
何言ってんだ、コイツ…
つか、損ならもうしっかりしてるし…
「俺の豚汁…」
ホームレス仲間のじーさんに聞いて、滅茶苦茶楽しみにしてたんだよ。
なのにコイツのせいで…
「豚汁? ああ、炊き出しの?」
「そうだよ、あんたのせいで豚汁食い損ねたんだけど…」
豚汁だけじゃない、水だってパンだって、色々貰えた筈なのにさ…
この落とし前はどうつけてくれるわけ?
「ククク、それは悪かった…な…」
「悪かったじゃねぇよ、ったく…」
「じゃあさ、こうしないか?」
そう言って翔はスーツの胸ポケットからシガーケースを取り出すと、そこから一本抜き取ってから、ケースを俺に差し出した。
「好きなだけ豚汁食わせてやるから、俺んとこ来ないか?」
ってな。