第1章 A
「お、おいっ…!」
気付ば人気の無い裏通りまでソイツに引っ張られ、そこまで来てから漸く声を上げ、手を振り解いた。
「一体何なんだよ急に…」
すっかり赤くなった手首に、(何の意味も無いけど…)フーフー息を吹きかけながら、目一杯睨みを利かせてやる。
でもソイツには全く効果がなく…
分かってるよ?
俺、超垂れ目だし、睨んだところで全然怖くない、ってことくらいはさ…
でもさ、笑うことなくねぇか?
そう…、ソイツは俺の懇親の睨みを、あろうことか鼻で笑いやがったんだ。
「フン…」てな。
それだけなら…ってこともないけど、ソイツはゴツい指輪が幾つも嵌まった指で、俺の顎をガシッと噛むと、俺の顔を上向けたり下向けたり…
更には右にも左にも向けてさ。
流石の俺も段々腹が立って来て…
「ったく、何なんだよさっきから…。つか、痛てぇし…」
顎を掴んだ手から強引に顔を背け、再度の威嚇攻撃を試みた。
すると今度は急に腹抱えて笑い出して…
いやいや、全然意味わかんないんですけど…
「お前、可愛い顔してんじゃん」
「はあ?」
確かに、小さい頃とかは良く女の子と間違われたりもしたけどさ…
「つか、お前誰だよ」
「あれ? 言ってなかったっけ? 俺は、櫻井翔。宜しくな」
そう言って翔は俺に右手を差し出してきた。