第1章 A
俺がホームレス生活を始めて2ヶ月程経った頃かな…
いつものようにホームレス仲間に連れられ、隣の区でやってる炊き出しに行った時のことだった。
丁度俺の並んでる列の前に、明らかにその場にはそぐわない…
どこからどう見ても金持ってそうな奴か並んでてさ…
だってだよ?
指にはやたらとゴツい指輪幾つも着けてるし、着てる物だってどこぞのブランドのスーツで、髪だってしっかりセットしてて。
靴だってピカピカに磨かれててさ…
豚汁一杯貰うために並ぶようなさ、そんな奴には全然見えない。
コイツ、絶対ホームレスじゃねぇだろ…
冷やかしか?
(心の中で)苦情を言ったその時、ソイツが振り向き様に俺に言ったんだ。
「お前、俺んとこ来ないか?」って。
当然、何のことだかさっぱり分からない俺は、ポカンと口を開けるしかなくて…
「あんた何言ってん…の?」
漸く絞り出した声も、しっかり周りの喧騒に掻き消されてしまって、ソイツにほ全く届かずでさ。
ひたすらアホ面晒してたら、ソイツが突然俺の手を掴んで、俺を豚汁の列から引き離した。
つか、俺の豚汁!
豚汁に未練を寄せながらも、俺は引っ張られるままソイツの後を追った。
振り解こうと思えば出来たんだろうけど、どうしてだか出来なかったんどよな…