第3章 A…
「ん、ん、んなわけ…ないじゃん」
思わず〝うん〟と頷いてしまいそうになるのを必死で堪え、僕は誤魔化した…つもりだった。
「だ、だ、だ、だって、男同士…じゃん?」
「それ関係あるか? 同性だろうが異性だろうが、好きって感情に違いはないんじゃねぇか?」
恋愛するのに、別に男同士だからとか女同士だからとかさ、必ずしも異性同士じゃなきゃ駄目ってことはないし、そんなこと誰よりも僕自身が分かってる。
でもさ、ただ〝好き〟だけではどうにもなんないのが、同性間の恋愛だと思うんだけど?
例えば…さ。
僕は翔の手を取り、ビルとビルの隙間に引き込んだ。
「じゃあさ、ここで僕とキス出来る?」
人と擦れ違うのも難しい狭い小路だから、身体はほぼ密着してるし、どうかすればお互いの息だってぶつかり合ってしまいそうな、そんな距離感の中、僕は少し背の高い翔を見上げた。
「キス…か…」
外では堂々としてる翔が、珍しく動揺してるのが、やたらと落ち着かない目線や、口調からも伝わってくる。
「出来なくも…無い、かな」
だろうね?
仕事モードに切り替えてしまえば、相手が男だろうが女だろうが、多分キスなんて平気で出来ちゃうんだろうね?
「ふーん、じゃあしてみてよ」
僕は翔を見上げたまま、静かに瞼を閉じた。
心臓は…、ありえないくらいバクバクだったけど…