第3章 A…
ただでさえ超が付く程の至近距離なのに、翔が更にその距離を詰めて来たのが、鼻先にかかる息(多分鼻息)で分かった。
と同時に、僕の心臓が痛いくらいに強く脈打ち始め…
やっぱ無理っ!
耐え切れず、瞼をギューッと瞑った瞬間、僕の唇に、明らかにソレと分かる感触の物が、チュッ…と音を立てて触れた。
え…?
えぇ…?
「えぇ…っ?」
多分…じゃなく、確実に変な声出てたと思う。
驚きのあまり、普段の何倍もの速さで瞬きを繰り返す僕を、翔がクスクスと肩を揺らして笑う。
「お、お前…い、今…キ、キ、キ…ㇲ…」
「したけど、何か?」
「な、な、何か…って…」
よくも平然と…
僕がこんなに動揺してんのに。
「お前が言ったんだろ、キスしてって」
「そ、そりゃそう…だけど…」
マジでするとは思ってなかったんだもん…
「嫌、だったか?」
覗き込むように聞かれて、僕は咄嗟に首を横に振った。
「じゃあ…、嬉しかった、とか?」
「え、えと、そ、それは…」
本音を言えば、嬉しかった。
でもそんなこと、口が裂けても言えない。
だって、ゲイだってことは勿論だけど、キス一つで舞い上がっちゃうような変な奴だって、翔には思われたくなかった。
「や、やっぱお前、意味分かんねぇ…」
僕は本音を隠し、翔に向かって憎まれ口を叩いた。