第3章 A…
流石の僕も気付いた。
僕、翔のこと好き…なのかも、って。
でもきっと言えない…っていうか、表に出しちゃいけない感情…なんだろうな。
なんたって翔も、そして僕も、女(たまーに男もいるけど)相手に媚売る…ばっかじゃないけど、そういう世界で生きてるわけで…
だからこそ、〝男が好き〟なんてさ…
ましてや店のトップでもある翔のことが…なんて、絶対言えない。
僕は胸の奥に芽生え始めた感情を押し殺すように、キュッと唇を噛み締めた。
そしたらさ、何か目頭がカーッと熱くなって来て…
全然そんなつもりなかったのに、急に涙が溢れて来ちゃって…
ヤバい…
と思った時にはもう遅かった。
「何、どうした?」
何年かぶりに流した涙を、まさか翔に見られるとは思わなくって、僕は咄嗟に顔を車窓に向けた。
無駄な抵抗だったけど…
「ど、どうもしないし…」
「どうも…って、じゃあ何で泣いてんだ?」
「そ、それはお前が…」
「俺? 俺がどうした?」
路肩に車を停めた翔が、運転席から身を乗り出すようにして、僕の顔を覗き込む。
「お、お前が…キ、キ、キスなんかすっから…」
「ああ、でもあれは仕事だし…」
それは分かってる。
分かってるけど、でも僕は胸が締め付けられるくらい、苦しかった。