第2章 R
僕は軽く頭を下げると、差し出された右手を握った。
「俺は和也。因みに、源氏名は“カズ”。よろしくね」
「あ、えと…僕は…」
言いかけたところで、僕は昨夜翔に言われたことを不意に思い出した。
ホストってのは、芸能人みたく“源氏名”ってのがあるんだ、って…
でも僕はそんなの考えてもなければ、今更別の名前で呼ばれたところで、馴染める気もしない。
一応“仕事”なわけだし、渾名だと思えば良いんだろうけどさ…
「大野智です、よろしく…お願いします」
僕は迷った挙句、本名を口にし、再度頭を下げた。
「ふーん…、智ね…。ふーん…」
和也は背中で手を組むと、僕の全身を…それこそ爪先から頭の天辺まで、舐めるように見ながら僕の周りを一周した。
「なるほどね…」
「は…?」
「なーんかさ、翔ちゃんの好みのタイプだな…って思ってさ」
「え…?」
好み…って、どういう意味?
尋ねようと思った時には、既に和也の姿はそこには無く、その代わりに、和也や雅紀とは全く違う…
そう、ちょっとばかし日本人離れした、目力強めな男が僕の隣りに立っていた。
「えと、あの…」
まるで吸い込まれそうな目に、僕の口からはそれ以上の言葉が出て来ない。