第2章 R
「あ、それと…」
真っ黒なドアに、やたらと目立つ赤く塗られたドアノブを握り、翔が振り返る。
「お前、タメ口禁止な。お前より若い奴もいるけど、一応皆先輩だから」
「あ、ああ、うん…」
「“うん”じゃなくて“ハイ”な?」
「ハイハイ…」
…ったく、僕だってそれくらい分かってるし…
「俺にもな?」
「分かりました、社長」
僕はほんのちょっとの嫌味も込めて言うと、翔の背中を追いかけるようにして、まだ見ぬ世界へと足を踏み入れた。
カウンターを抜け、フロアへと続く廊下の黒い壁には、ドアノブと同色の薔薇が均等に飾られ、天井からはシャンデリア(?)がぶら下がってる。
別世界…って言葉がピッタリくるような…、とにかく凄いトコに来てしまったって気がして…
「あ、あのさ、やっぱり僕…」
言いかけたけど、店内にはBGMもしっかりかかってるし、シャンコってやつも響いてて、すぐ前を歩く翔には届かない。
もっとも、今さら“辞める”なんて言ったところで、しっかり契約書にサインしちゃったしな…
許してくんねぇだろうな…
翔に気付かれないよう、僕はこっそりため息を落とした。
その時…
「ねぇねぇ、君…」
後ろから肩を叩かれ、驚いて振り返った先には、小柄で色白の男の子(?)が、一癖も二癖もありそうな笑顔で立っていた。