第2章 R
胸の高鳴りを感じつつ乗り込んだエレベーターが、丁度ビルの中間くらいの階で止まり、ドアが静かに開いた。
でもさ…
何でだか分かんないけど、足が竦んだみたくなって、全く動かなくなって…
「何してる?」
先にエレベーターから降りた翔が振り返るけど、僕は強張った笑顔を向けることしか出来ない。
「お前さあ、その年になって“お手々繋いでないと降りれない”とか言うなよ?」
「は、はあ?」
何なんだよ、人をガキ扱いしやがって…
だいたい、僕の方が年上なのに!
と、まあ…文句の一つも言ってたやりたいとこだったけど、翔の言葉をきっかけに、僕の足は漸く一歩を踏み出すことが出来た。
っていうか…
「なに、この雄叫びみたいなの…」
閉まったドアの向こうからでも、かなりのボリュームで聞こえてくる掛け声(?)みたいなのが気になった僕は、ドアノブに手をかけていた翔のジャケットの裾を摘んだ。
「ああ、これはシャンコって言って…」
翔は何も知らない僕に、事細かに説明した上で、今は営業前の練習なんだと教えてくれた。
「なんか…、すげぇな…」
その迫力は、ドアがピタッと閉まっていても十分伝わってくる。
「あれ、お前もやんだからな?」
「へ?」
それまで感心顔だった僕は、翔の一言で一気に間抜け面に変わった。