第6章 霞柱との休息 新型の釜
視点
無一郎の屋敷から私の屋敷までは、歩いても半刻もかからない。
自分の屋敷へと向かう軽かった足取りは、次第に重くなり私は歩みを止め、道の隅でしゃがみ込んだ。
「っ…」
目からは我慢していた涙が流れ、自責の念に駆られる。
ー今日はすごくすごく楽しくて、嬉しかった。
あれだけ嫌われていた無一郎と話ができて、ご飯を食べてもらえて、買い物まで一緒に行けて。
でも嬉しかった本当の理由は。
ーまるで"あの方"と一緒に、”普通の人”の日常を味わう事ができたように思えたからだ。
私は手の甲で涙を拭う。
無一郎を初めて見た時から、あの方の血筋だと勘で分かった。
まさに霞がかっているような無一郎の瞳は、本来の自分を取り戻せていないのだろうと感じた。
だが、それすらも負にさせない天賦の才を全身に滲ませる立ち振る舞い。
圧巻の剣技。
この男の子は数年後、きっとあの方が人間だった時をも超える剣士になるー
そう思った。
ただ、きっとあの方の血なんて一滴ももう残っていないだろうけど。