第6章 霞柱との休息 新型の釜
柱合会議の後、手紙を通じてお館様に無一郎の事を少しだけ教えてもらった。
過去の出来事がきっかけで記憶障害がある
事、勘通り、日の呼吸の子孫であると言う事。
それ以上は仲良くなって自分で聞け、と言われてしまったが。
消えてしまったあの方の足跡を這いつくばって探して、やっと見つけた名残り。
辿り着いた先はあの方ではなくても、その名残があったから、つい飛びついてしまった。
心が大きく揺らぐほど、無一郎の存在は安心でき、大きく感じた。
ー私はすごく残酷だ。
無一郎を勝手にあの方に重ね合わせて、好意を持ってもらえるよう仕向けるような言動をして。
何がしたいのか自分でも分からない。
それでも…それでも嬉しかったのは本当だ。
あの方が食べれない人間の食べ物を食べてくれたこと、暖かい陽の当たる昼間に一緒に歩けたこと。
そしてあの方の事は関係無く、無一郎のちょっとした表情の変化を見れた事。
普通の人に生まれていたら、普通である事が私には普通ではなく、特別なんだ。
「…くだらんな。私には何もかも縁遠いことなのに」
それでもー
あの方ー
黒死牟様を殺し、儚い命の灯が消えるその瞬間まで。
可愛くて、少し口が悪くて、自分を取り戻せていない少年の成長を、少しだけ近くで見守ることくらいは許して欲しい。
私はパンと頬を両手で叩くと、立ち上がる。
「さぁ、今日はしっかり休んで明日の任務に備えるか」
私は刀の柄を撫で上げると、また歩き始めたのだった。