第6章 霞柱との休息 新型の釜
無一郎はを近くの木に強く押し当てると、手をの脇につき、逃げられないようにグッと顔を近付ける。
少しだけだがの方が背が高いはずなのに、無一郎の肩幅はしっかりよりも広く、が気圧されるほどに迫力がある。
「む、無一…」
「…僕は男だから。可愛いって言わないでくれる?」
無一郎は苛立ったように、そして念を押すようにの瞳を覗き込みそう言うと、すぐに離れて歩き出す。
「……」
少しすっきりした表情の無一郎がチラリと後ろを見てみると、茹でタコのように顔を赤くしたが、微動だにせずそのままいる。
無一郎はその姿に呆れたような表情になる。
「…君変態なんじゃないの?僕に胸を見せたがってたよね?なんで近付いただけで顔を赤くしてるの?純粋ぶるのやめてよ」
無一郎は全く理解出来ないとばかりに肩をすくめてそう言うと、はハッと我に返り怒り出す。
「っ!!ち、違う!あれはそなたに興味をもって貰いたくて言っただけで!そういうどうでもいいことはよく覚えているな!」
「興味って…君、もしかして僕の事好きなの?」
「えっ…あ…その…」
「まぁ僕は君の事嫌いだけどね」
「なんと…面向かって…」
泣きそうな声でどもるにガツンと無一郎が言うと、早足で進み出す。
「待って無一郎…」
無一郎はのその声に立ち止まると、ゆっくり振り返る。
「…でもなんか…悪い気はしない」
無一郎はぽつりとそう言うと、また先を進み出した。
「…どういう意味だ?教えてくれ無一郎!」
「騒がないでくれる?耳障りだから」
「やっとお姉様の魅力に気がついたのか!」
「だから君はおばさんでしょ」
「そなたと少ししか歳は違わないと言っているだろう!」
「分かったよ。おばさんだなんて言ってごめんね、おばさん」
「うう…」
そんな二人のやりとりにくすくすと笑うように、木々の葉が穏やかに揺れていたのであった。