第5章 音柱との任務 忍びの鬼
「…あ?」
天元は愕然とした表情をする。
「…月の呼吸 伍ノ型 月魄災渦」
ー血塗れのが、飛び散った肉片の中心で刀を持って佇んでいたのだ。
倒れ込み、絶対絶命の状況だったにもかかわらず。
「…危なかった。日輪刀を叩き割られていたらと思うとゾッとする」
はそう言って顔についた鬼の血を手の甲で拭くと、ゆっくりと天元に近づく。
「…お前、時透の時も同じ技を使ってたな。刀も振らずどうやって殺した」
天元は両手を後頭部にあて冷静を装いながら聞く。
末恐ろしい女だ。
天元はに対して得体の知れない恐怖を感じる。
「…なに、刀は振ったぞ?少しばかりカラクリはあるがな。それにしても意外と気絶したフリ作戦が功を奏したな。明らかに油断した」
隙のない忍かと思いきや、詰めが甘かったなとからりと笑ったは、天元の肩を背伸びしてぽんと叩き、帰ろうとする。
「おい、オマエ…」
平気そうだが毒は大丈夫なのか、と天元が怪訝な顔をした直後だった。
「そういえば私の演技はどうだっ…あ、倒れる」
はそう言って唐突にパタリと倒れた。
「…はぁ……ったくよぉ…」
天元は倒れたを見て大きくため息をつくと、体をごろんと転がし上を向かせる。
毒が回ったせいで倒れてしまったは、さっきまでの隙のない表情とは違い、
苦しそうだが穏やかだ。
「…泥だらけだがやっぱり可愛い顔してやがるなこいつ」
天元はしゃがみ込んでの顔をまじまじと眺める。
十六と聞いて、大人びていると言えばそうだし、
年相応といえばそう見える。