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残穢

第3章 3(夏油視点)



「皆様、本日はご来場いただきありがとうございます
 そしてこの素晴らしい御縁を結んで下すった若い皆様に感謝いたします
 この団体の代表をしている夏油と申します」

セミナーや講習会特有の舞台セットを背後に、来場者へ挨拶をする。
袈裟を着た同世代が登壇して“私が代表です”などと言っても胡散臭いだけだ。
初めて信者の前に立った時がそうだった。
だから猿には見えない力で園田を殺した。
あれは効果絶大だった。

“パチパチパチパチ”

不快な拍手音が会場内に充満している。

「有難うございます
 それでは早速…」

そう言って取り留めもない会話と団体の綺麗な部分のみを説明する。
もちろんユーモアやジョークを織り交ぜながら、親しみやすく共感出来るように。
SNS中毒の猿にとって大事なのは共感だ。
若い猿共は共感中毒者で常に誰かに共感して貰いたいと感じ、常に誰かに共感したいと飢えている。

「簡単に説明しましょう
 貴女、そう貴女です!
 どうぞ壇上へ!」

猿で埋め尽くされた会場を見渡し、気になっていた来場者の一人を壇上に呼び寄せる。
彼女には低級呪霊が憑りつき、その事で苦しんでいるのは明白だ。

「…あ…あの…」

「ここ一か月程、酷い倦怠感と肩コリにな悩まされていますね?」

今から彼女を使い来場者をふるいに掛ける。
猿を振るい落とし網の上に残った人間を見極める。
政治的な内容は避け、スピリチュアルやオカルト寄りの話を自然な流れで導入してゆく。
高学歴ほど革命的な左翼思想に傾倒しやすい。
人とは違う自らの異能力に選民意識を植え付け、私と団体に心酔させる。

「…っ!?」

「動かないで」

彼女に手を翳し、寄生するかのように憑りついていた低級呪霊を取り込む。
それは私の手の中に吸い込まれ、黒がかった黄色の球体へと変化する。
その様子を見た来場者数人の呪力が著しく乱れた。
それは会場に見極めるべき存在がいる事を示している。
だが対象者に当事者は含まれていない。

「…え?」

「もう大丈夫」

彼女に近付き微笑み掛ける。
優しく、穏やかに、親しみやすく。
そして甘い声色で安心させる。

「あの…」

「元の学生生活に戻れますよ」

「ありがとうございます」

そう言って微笑むと、頬を赤らめ今にもとろけそうな目で私を見つめて来る。
猿は単純だ。
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