第3章 3(夏油視点)
「さて…此処からが本題です」
彼女を席に戻し声をワントーン低くする。
飴と鞭はうまく使い分けなければならない。
“ガシャンッ!!!”。
突然会場内に喧しい金属音が響く。
原因の方に視線を向ければ、椅子から転げ落ちた女性が腰を抜かし怯えた目で私を見ている。
理由は単純。
私が呪霊を呼び出したからだ。
突如空間が裂け、裂け目の向こうから禍々しい呪霊が会場を見ている。
見たり感じたりできる者であれば誰でも警戒する状況だ。
一級呪霊ともなれば恐怖は計り知れない。
しかし、それが認識出来る者は100人の猿に埋もれた3人だけ。
「大丈夫ですか?」
心配そうな声を出し壇上から降りようとするフリをすれば、勧誘役の二世、三世達が駆け寄り介抱を始める。
予定通りの流れ。
「彼女を休憩室へ連れて行ってあげて下さい」
マイクを通して落ち着いた声で指示を出す。
迫りくる自らの危険すら察知する事が出来ない猿共はザワつきながら不安そうにしている。
そして私に対して不振な眼差しを向ける者達が現れる。
ここまでは計算通り。
「待って下さい!
夏油様はそんな方じゃありません!」
会場内に先程とは別の女性の声が響き渡る。
私が壇上に上げた大学生だ。
「気にしないで下さい
慣れていますから」
「私には分かります
夏油様は特別な力を持っています
それを脅しに使うような方ではありません」
「大丈夫ですよ
“それ”と無縁である事は幸せな事です
しかし危険な事でもあります
それを貴女が理解して下すった事は私にとって非常に価値があります」
壇上と客席で来場者を挟み会話を展開する。
彼女は仕込みではない。
私がそうなるように誘導した。
優しく甘く安心感のある眼差しと声で。
しかしここまで酔うとは思っていなかった。
笑いそうだ。
私の何が分かるというのだ。
呪霊も認識できない癖に。
これだから猿は嫌いだ。
そして、どこからどこまでがハッタリなのか疑おうともしない奴らも猿だ。
猿は嫌い。
それが私の出した答え。