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残穢

第3章 3(夏油視点)




非術師の名前が私を呪術師として評価する事は無い。

“誰”とも比較されない。
“対当でなければならない”というプレッシャーも無い。

私が私である限り隣に居させてくれる。
それが嬉しくて安心できた。

名前の前では何処にでもいる普通の学生として振舞う事ができた。
年相応でいられた。


残穢3章




「あーあー」

軽くマイクを叩き声をあてる。
拡張された声と音がホールに響き渡り高音のノイズが耳を劈く。

不快だ。

「本当に登壇されるのですか?」

「若い二世の心を掴む為に一番手っ取り早い方法は私が登壇する事だからね」

「それはそうですけど…」

幹部達は私が表に出る事をネガティブに捉える者が多い。
私が呪術界から処刑対象としてマークされている事と専用の闇サイトで莫大な懸賞金が掛けられている事が理由だろう。
活動圏は一部の術師や呪詛師には既にバレている。

それが何だと言うのだ。
誰も私を仕留める事は出来ていない。

「それに二世が勧誘してきた猿の中に人間が混ざっているかもしれないからね
 たまにはいいだろう?」

女性が喜ぶ笑顔という仮面をかぶり、甘ったるい声で理由を手短に説明する。
ごく稀にだが猿が勧誘した猿の中に見たり感じたりできる者が混ざってる。
そうなれば審査する必要がある。
末端であっても運営に関わる者は呪いを認識できる者でなければならない。
運営の全てをファミリーだけで賄うのは無理だ。
私に猿社会での社会人経験は無いが、それが分からない程猿の構築した社会のルールに無知な訳ではない。
だから末端の業務や事務方は一般教徒の中から呪力を認識できる“信心深い”者をピックアップする必要がある。

「ですが…」

「私が直接見極める」

袈裟を整え低い声で一蹴する。
私が出て行かずして私に心酔させる事など出来ようはずもない。

「夏油様…」

まだ不満そうだな。
生意気になるようなポジションを与えてしまったのは私の失態だ。
均衡が崩れる前にバランスをとる必要がある。
思考を巡らせながらマイクを握り、暗い舞台袖から光の注ぎ込む壇上へと歩を進める。


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