第9章 9(夏油視点)
残穢9
心が読めない。
私という存在が通用しない。
だからこそ知りたかった。
残穢9
「乗って」
「で…でも…」
「責任は私がとるから大丈夫」
女子生徒の小柄な体を抱き寄せ、校門の前に駐車していた黒塗りのセダンに駆け寄る。
運転席に飛び込んだ補助監督がドアのロックを解除し、私はそのドアを引いて彼女に乗るよう促す。
土砂降りの混乱でバタバタしながらも彼女は車に乗ってくれた。
“バンッ”
私も反対のドアから後部座席に飛び込み勢い良くドアを閉めた。
傘からは大量の水が滴り、制服も鞄もびしょ濡れ。
ドアを開けた際に吹き込んだ雨と、私が持ち込んだ雨水でシートも濡れていた。
「あ…あの…」
「大丈夫?」
「ごめんなさい…制服…
クリーニングに出してから返します」
不安そうなか細い声がして彼女の方を見れば、ハンカチタオルで私の制服を拭いていた。
そう言えば顔が見えないように上着を被せていたな。
バタバタしていてすっかり忘れていた。
「気にしないで」
「でも…」
「掛けておけば乾くよ
それに上着は1着しか無いんだ」
「ごめんなさい」
彼女の申し出を優しく断れば、小さな声で謝られ、そのまま俯いてしまった。
その悲しそうな横顔に2度目の罪悪感が襲ってくる。
特別感を味わって貰うどころか傷付けてしまった。
「私の方こそ強引だった」
「え?」
「それより寒くない?
途中で何か温かい飲み物でも買おうか」
「そんな…気にしないで下さい」
いつの間にか走り出していた車の中に気まずい空気が漂う。
どうしたものか…
厳格な女子校のせいなのか、異性との交流に慣れていないのかもしれない。
強引に攻めすぎたようだ。
「そんなに気を遣わなくていいよ」
「ごめんなさい」
再び謝罪すると、黙々と私の制服を畳み始める姿は彼女を更に小さく感じさせる。
振り出しに戻ってしまった。
「夏油傑」
「え?」
「まだ名乗ってなかったから」
「げとう…すぐる…」
「うん、漢字はね…
上着の内ポケットに学生証が…」
そう言った瞬間、彼女が綺麗に畳まれた私の制服を差し出した。
見事と言うべきか…広げるのが惜しいくらい綺麗に畳まれている。