第8章 8(主人公視点)
「落とし物を探すくらいなら大丈夫ですよ」
「しかし…」
不満そうな学年主任とは真逆で改造制服の調査員はニコニコしている。
正面から見た笑顔は凄く誠実な感じで、声も穏やかで優しい。
ヤンキーとチャラ男の掛け合わせみたいな見た目とはギャップがある。
皆が騒ぐのも分かる。
シャープで整った顔立ちも確かに格好良い。
でも私は何となく苦手だな…と思った。
こういう男性は自分が優れている事を理解しているから外面は抜群に良い。
だけど一皮剥けば中身は周囲を見下している人ばかりだ。
「失礼します」
軽く頭を下げ理科室に入る。
3人から離れた作業台や床にシャーペンが無いか探す事にした。
しかし見付からない。
仕方なく3人の周辺も捜索する事にした。
しゃがんで机の下を探す行為の繰り返し。
私…何してるんだろう…
「もしかしてコレですか?」
降って来た優しい声に顔を上げれば、目線を合わせるように片膝を着いた調査員がピンク色のシャープペンを差し出してくれた。
「それ…です」
「どうぞ」
至近距離で見る笑顔はとても大人びていて同い年とは思えない。
自分とは違う世界にいる人だと一瞬で理解できた。
「あ…りがとう…ございます…」
シャープペンを持つ彼の手は大きくて程よく厳つい大人の男性の手をしている。
受け取る瞬間に自分の手が子供の手のように見えて恥ずかしかった。
「どういたしまして」
ニッコリと微笑み、私とほぼ同じタイミングで彼も立ち上がる。
予想以上の身長差に自分と同い年である事を疑ってしまう。
雰囲気も落ち着いていて凄く大人っぽい。
高校生だとなかなか許されない長髪やピアスも大人っぽさを増長させていた。
校則の厳しい私立の自分とはあまりにも違い過ぎる。
「すみません…」
“ドクンッ…ドクンッ…ドクンッ…”
驚き、緊張、恐怖、様々な感情が入混じり心臓が煩い。
顔も熱い。
私は軽く頭を下げ、逃げるように彼の傍を離れた。
「…っ…」
意識して何になるというのだ。
相手にされるどころか視界に入る事すら二度とないだろう。
見た目と愛想が良いだけだ。
騙されるな。
“ドクンッ…ドクンッ…ドクンッ…”
心臓の反応を脳内で否定しながら小走りで教室を目指した。