第8章 8(主人公視点)
「学食行くの?」
「飲み物買いに行ってくる」
鞄から財布を取り出すと友人が声を掛けて来る。
自販機の並ぶ場所は購買と学食に挟まれており、校舎の外へと出なければならない。
ついでに買い物を頼まれる事もあるのだ。
「頼みがあるんだけど」
「何?」
予想通りおつかいを頼んできた。
「理科室にシャーペン忘れてきちゃったみたい
見てきてくれる?」
「どんなやつ?」
「サイドノック式のやつ~ピンクの」
「分かった」
「よろしく~」
そう言って教室を出る。
理科室は旧校舎の一階の端っこにあり、暗くジメジメした印象の場所だ。
ちなみにその教室を使用しているのは生物の中年男性教師で陰のあだ名はガマガエル。
見た目が似ているだけで変な教師という訳ではない。
「失礼しま~す」
烏龍茶のペットボトルを抱えて薄暗い旧校舎の理科室を覗く。
電気はついており、教室内には生物教師、学年主任の男性教師、見た事の無い若い男性の三人が話をしていた。
彼が派遣された噂の調査員だろう。
一人だけ飛び抜けて背が高く、骨格もややガッシリしている。
黒い長髪をお団子のように纏めた髪型、両耳にはピアス、一番目を引いたのは奇抜な濃紺の改造制服。
顔は良く見えないが、私達と同い年というのは本当らしい。
しかしボンタンなんて初めて見た。
都市部でああいうのは絶滅したって聞いてたけど…
「どうかしましたか?」
「生徒さんが…」
私の気配に気付いたのか、彼が突然振り向いたのだ。
“ドクンッ…”
その瞬間、驚きで心臓が締め付けられる。
いきなり声を掛けられ純粋にビックリしたのと、振り返った彼の容姿が想像と全く違っていたから…
「何の用だ?」
「…あの…さっきの授業でシャーペンを落としてしまって…」
「はぁ?」
学年主任の威圧的な物言いで我に返る。
コイツは学年主任になってから態度が変わった。
しょーもない男だ。
「ピンクのやつです
探してもいいですか?」
「後にしなさい」
「…」
担任でもない、自分の授業を受け持った事もない、ましてや理科の教師でもない奴に命令されるのは納得がいかない。
生徒に聞かれたくない話なんて理科室ですんな。
理由は分からないが滅茶苦茶腹が立った。