第7章 7(夏油視点)
「ありがとうございます」
そう言って傘を受け取ったは良いが、隣に立つ女子生徒を置き去りにして自分だけ車で帰る訳にもいかない。
彼女の中で私の印象はマイナスを叩き出しているだろう。
どうにかして彼女の印象をゼロへと戻さなければ…
おそらく彼女は一般的な女性に対するおべっかが通じないタイプだろう。
どうすべきか…
「どうかなさいましたか?」
「彼女も一緒に…と思って」
「え!?」
斜め下から彼女の声が飛び出して来る。
少し強引だが“特別扱い”を味わってもらう事で機嫌を取る事にした。
「しかし…」
「決まりですね」
強引に話を終わらせ学生鞄を一旦床に置き、制服の上着を脱ぐ。
シャツの上から学生鞄をバックパックのように背負うと、脱いだ制服を女子生徒の頭の上から被せた。
こんな所を在校生や教師に見られたら彼女にもお説教が待っているだろう。
コレは顔も隠せて雨も防げるので一石二鳥だ。
「…っ!?」
「傘は一本しかないから濡れないようにね」
「あ…あのっ…」
「正門の先に車があるから、そこまで少し走るよ」
そう言ってジャンプ式のビニール傘を開き、彼女の肩を抱えるようにして傘の下へと招き入れる。
傘のサイズは大きかったが流石に学生2人が入るには少々サイズが足りないからだ。
抱き寄せるように腕を回した肩の華奢さに一瞬驚いてしまった。
密着すれば小柄な体格が生々しく伝わってくる。
同い年でこんなに小柄な“女の子”に触れたのは初めてだ。
少しでも力を込めたら壊れてしまいそうで、柄にもなく緊張してしまった。
「ちょっ…」
「行くよ!」
声を掛け、土砂降りの中に飛び出す。
身長差のある女子生徒の肩を抱きながら傘を差して走るなんて初めての経験だ。
地面は水溜まり状態で所々で川のように水の流れが出来ており、一歩踏み出す度に雨水が激しく飛び散る。
バシャバシャと跳ねる雨水で足元はビショ濡れ、正面から打ち付ける雨粒は傘など無意味だと嘲笑っているかのようだ。
「うわっ…」
雨の強さに女子生徒から声が漏れる。
彼女の方に傘を傾けながら、出来るだけ濡れないよう抱き寄せ小柄な彼女に歩幅とスピードを合わせながら走った。