第7章 7(夏油視点)
このままだと任務に支障をきたす恐れがある。
在校生と一定の距離を保つ事に重きを置きすぎた。
掛け持ちとは言え、2週間近く現場に顔を出しているが手掛かりは掴めていない。
ようやく聴き込み調査の許可が出たというのに取り消しになったら厄介だ。
軽率だった…
そんな事を考えていると、女子生徒が傘もささずに雨空の下へと躊躇いもなく出て行こうとした。
「待って!」
思わず彼女の腕を掴んで引き留める。
このままではびしょ濡れになってしまう。
手に持った折り畳み傘など存在していないかのような行動に小さな焦りが加速してゆく。
「え?」
「濡れてしまうよ」
そう言って心配そうな表情を作り出来るだけ自然に微笑んだ。
私は何をしているのだろう…
「あ…あの…」
彼女は驚き戸惑っているように見えた。
大柄な他校の男子生徒に腕を掴まれて驚くなと言う方が無理だ。
「雨…強くなってきたね」
「…」
「補助監督に大きめの傘を持って来て貰えるか頼んでみるよ」
「え?」
再度微笑んでポケットに手を突っ込んだ瞬間、私の心中を察したかのように携帯が振動し始める。
ディスプレイを見れば補助監督の名が表示されていた。
「もしもし」
『お疲れ様です
今どちらにいらっしゃいますか?』
「正門から見て正面にある昇降口です」
『傘をお持ちします』
「ありがとうございます」
この土砂降りと私の戻りが遅い事を心配して連絡してきたようだ。
ひとまず傘を持って来てくれるのはありがたい。
『今から向かいます』
「よろしくお願いします」
手短に会話を終えて電話を切る。
先程の女子生徒へ目線を移せば、私を見上げる視線とぶつかった。
しかし、すぐに目線を逸らされる。
嫌われてしまった…かな…
悪い噂が流れれば任務がやりにくくなる。
それだけは避けなければ。
「夏油術師、お待たせしました」
激しい雨音に混ざって女性の声が聞こえた。
大ぶりのビニール傘をさし、同じ傘を持ったスーツ姿の女性が小走りで昇降口に飛び込んで来る。
「雨の中すみません」
「これも仕事ですから」
そう言って持ってきたビニール傘を私に差し出す。
当然足元はずぶ濡れだ。
それだけでなく正面や腕も雨で激しく濡れている。