第1章 1(夏油視点)
「残酷…か…」
ベッドに腰を下ろし、帰りに現像した写真を眺める。
振り袖姿の名前は眩しい程に美しく、泣き腫らした目で精一杯作ったぎこちない笑顔は私の心を揺さぶる。
和服姿の女性に特別な魅力を感じた事は無かったが、学生時代に名前の浴衣姿を見てからその魅力に憑りつかれた。
ただそれは名前に限定されている。
だから振り袖姿の名前を見たくて会いに行った。
その美しい姿を写真に留めて彼女の気持ちを確認するつもりだった。
覚悟だの筋を通すだの意義も大儀も関係ない。
本当に単純で下らない理由だ。
“会いたい”
同い年の男は大学生活を謳歌する者が大半だろう。
冷静に考えれば私も現役学生の年齢だ。
高専時代は自分を犠牲にして非術師の平穏を護る為に戦ってきた。
この程度の矛盾や我儘なら許されても良い筈だ。
そして名前は今でも指輪をはめていた。
何の問題もない…何が悪い…
「…ん?」
別れた筈の呪力同士が再度接触した事を感覚で察知する。
良く知った呪力同士の再接触。
強力な力を最小限に抑え込んだそれと、微弱な非術師のそれは私の嫉妬心に火を着けるには十分すぎた。
御守りの指輪など贈るんじゃなかった。
あれは彼女に“悪い虫”が憑かないよう護る為の物だった。
だから彼女の居場所や接触相手の呪力もそれなりに感覚で察知できるよう私の術式を応用して仕上げた。
黙って監視のような事をしていた罰が当たったのかもしれない。
「結局は五条悟か…」
学生時代のようにアップへと結い直した髪を解き、いつものハーフアップに結い上げる。
名前は悟を選んだ。
一生に一度しかない成人の日を過ごす相手に五条悟を選んだのだ。
私は選ばれなかった。
「名前…私は…」
君と一緒にいたかった。
ただそれだけなのに、実際に会ったら様々な感情が渦を巻いて滅茶苦茶な事を言ってしまった。
そして名前も引き摺られるように態度も発言もコロコロと変化し、滅茶苦茶になっていた。
しかし私と圧倒的に違っていたのは自分の本音を受け入れ相手に伝えた事。
私は本音を言えなかった。
今でも好きだと…
名前が恋しいと…
一緒にいたいと…
名前だけは特別だと…