第6章 6(主人公視点)
「はい…」
『バラバラだと更に不安よね』
「実はその件で…先生にお願いがありまして…」
『“私達”に出来る事?』
「“あの時”派遣されてきた人の派遣元の連絡先を教えて頂けませんか?」
一か八かの賭けだった。
担任を任されているだけの末端教師がそんな事を知っているとは思えなかったが、私も代表番号は知らないのだ。
『…構わないけど…
もう“あの子”は業界にいないわよ』
「先生…どうして?」
恩師の口から出た言葉に思考が一時停止した。
どうしてその事を知ってるの?
『今日の夕方、高校に来られる?』
「え?」
『講義が終わった後で構わないから』
「分かりました」
『警備員には伝えておくから
正門から入って職員玄関で私を呼んで頂戴
15時~17時の間なら好きな時に来て良いから』
「はい…」
恩師は手短に必要な事だけを告げると電話を終わらせた。
私は“はい”と答えるしかなかった。
「意外と落ち着いてるのね」
母校を訪ねた私を恩師は笑顔で出迎えてくれた。
女性教師の中でも痩せ型で若作りしていたが、相変わらず“イイ女”系路線を突っ走っているようだ。
「そうですか?」
「もっと怯えてると思って心配してたのよ」
紙コップを両手に持って面談室に戻って来た恩師がテーブルにコップを置くと、椅子に腰かける。
私も同じように椅子に座ると、恩師が紙コップを私の前に置いてくれた。
中には教員用の自動給茶機で煎れたような緑茶が八分目くらいまで入っている。
「不安ですけど、私は2人ほど怯えてはいないと思います」
「私達もね…全員の通夜に行ってるの」
「え?」
「一度も遭遇してないわね」
「そうですね」
恩師は紙コップに口を付けると気取った素振りも見せずお茶を飲む。
そしてジャケットの内ポケットから1枚のメモをデスクの上に放り投げる。
こんなに荒っぽい仕草は見た事が無かったので正直驚いた。
「連絡先よ…
ただし“都立高専の代表番号”として公開されているものだから」
「はい」
「依頼料は高いなんてもんじゃないわよ」
「分かってます」
四つ折りになったメモを開き番号を確認する。
市外局番は都下のものだ。