第4章 4(主人公視点)
「貴女、本当に認識出来てるんですか?」
「え?」
「体調悪くならないんですか?」
食べ終えた食器をトレーの上で整え、立ち上がると去り際に爆弾を落とす。
五条君が言っていた。
この指輪には夏油君の術式が何らかの形で応用されていると。
そしてこの指輪が放つものは強烈な残穢であり、少しでも感知できる人間であれば気絶すると言っていた。
高専を出た人間ですら具合が悪くなるレベルらしい。
しかし彼女は何不自由なく活動している。
嘘確定だ。
「苗字さん“見える生徒”の間で有名よ」
「は?」
「呪われた指輪をしてるって…」
「…」
「それも強力な呪い」
「…」
「呪われてるのよ」
“呪”という言葉の登場に別の誰かの存在を感じた。
彼女が認識した訳ではなく、恐らく他の誰かが気付いて広めたのだ。
もしくは全てが嘘か…
私にとってはどちらでも構わないし興味も無い。
「強い呪いが厄災を撥ね返してるのかもね」
「真面目な話をしてるの」
「私だって真面目に言ってる」
五夏油君の残穢が結界のように私を覆っていると五条君が言っていた。
それは術式にすら見えると…
「それ貰い物でしょ?
贈り主は誰?
強力な呪いが込められている…普通じゃない」
「そりゃそうよ
“呪術師”から貰ったんだから」
妙に面白くなり怯える彼女を煽った。
追い掛けて来る彼女の足が止まり呆然としている。
「贈り主に殺されるわよ」
「本人には伝えてあるから大丈夫
どうせ皆殺しにするなら“貴方の手で殺して”ってね」
食器を返却コーナーに置いて食堂を出る。
あれはオカルトやスピ系サークルの勧誘ではない。
新興宗教やマルチと繋がっているサークルの人間だろう。
この大学にはそういったサークルが幾つもある。
気持ち悪い事この上ない。
「待って、祓って貰わないと手遅れになるわ!」
「私は幽霊も呪いも見えないから諦めて」
「そういう話じゃないわ!
私達まで呪われるの!」
追い掛けてきた彼女の言葉に笑いそうになった。
走って追い掛ける元気のある人間が夏油君の残穢にあてられて倒れる日など来るのだろうか。